神奈川新聞 2020年11月30日 朝刊掲載
国境なき医師団 村上大樹 医師
国境なき医師団(MSF)は紛争地や被災地、貧困地域などで医療と人道援助を行う非営利の民間団体。
現在、世界約70の国と地域で医師、看護師をはじめ、4万5千人のスタッフが活動する。独立・中立・公平の原則を掲げ、1999年ノーベル平和賞を受賞。
このMSFが小学5・6年生を対象に「世界といのちの教室」を開催した。
子どもたち同士がオンライン上でグループ・ディスカッションを行うプログラム。テーマは救う命に優先順位をつけなければならない状況下、自分だったらどのような判断をするか。究極の選択を迫られた子どもたちは真剣そのものだ。議論後この日、司会を務めた外科医の村上大樹さんが子どもたちに自身の体験を次のように語った。
「派遣先の南スーダンでマラリアがまん延した際、本当に命の優先順位をつけなければなりませんでした。
すべての患者に行き渡るだけの治療薬が不足し、どの患者に投与すべきか、選択を迫られたのです。投与することができず亡くなった子もいます。
目の前で苦しんでいる人たちを公平に助けるためにやって来たのに、それができず、心が張り裂けそうになりました。
10年以上前のことですが、今でももっと良い判断があったのではとずっと考え続けています」
この村上医師の体験談を聞き、強く心に残ったと語ってくれたのは神奈川県横須賀市の小学6年生・谷口ゆなさん。
ゆなさんはMSFに寄付していた祖母の遺志を継ぎたいと考え、今回のイベントに参加した。
また東京都の小学6年生・峰村優希さんは映画「風に立つライオン」を見たことが医師団に興味を持ったきっかけだ。
MSFの広報・都築彩さんは「多感な時期の子どもたちに命や社会に対する考えをぜひ養ってもらいたい」と開催の背景を語る。
「遠い世界の出来事ではなく、自分ごととして命の問題をとらえ、行動を起こしてほしい」とも。
子どもたちから村上医師には、最後たくさんの質問が投げかけられた。
興味と関心の高さがひしひし伝わってきた。