理究の哲学(エンジン)

第三章 脳と心ノ学

第二項 ”脳”のこと知っている?

心は脳なしには存在しえない。現代の科学者の事実上の全員が「心身一元論者」であり、心と脳は同じ物質的な「もの」から成ると信じている。身震いするような恐怖から甘い郷愁まで、主観的な体験は1つ残らず脳内の物理的事象に対応している。機能する脳がなくなれば、心はもはや存在しない。これは斬首によって苦もなく実証できる。
だが、心はニューロンと脳回路の活動から生じるとはいえ、心を生み出す物質とは同一ではない。単に、細胞レベルにあてはまる物理法則を使って、心理レベルの活動を完全に予想することはできない。

― その<脳科学>にご用心(脳画像で心はわかるのか)サリー・サテル&スコット・O、リリエンフェルド ―


さて、私たち生き物にとって、大事な脳。あなたはどれだけ知っているか確認しましょう。

【チェックテスト】

問1から問8まで、4択です。
既有知識を問う問題で、考えて答える問題ではありません。できれば声に出しながら(音読しながら)時間をかけず、ほぼ直感で答えてください。知らない問題は、山勘でとにかく先にいきましょう。

問1 私たちは脳をどれだけ使っていますか?

1. およそ100%
2. 睡眠時はおよそ5%、起きている時はおよそ20%
3. およそ10%
4. 知能によってちがう

問2 最後に脳細胞が生まれるのはいつ?

1. 生まれる直前まで
2. 5歳~6歳
3. 18歳~23歳
4. 老年期

問3 生後1ヶ月未満の赤ちゃん(健常児)の脳はおよそどのくらいの重さ?

1. 10~50グラム
2. 100~150グラム
3. 350~400グラム
4. 900~1000グラム

問4 アインシュタインの脳を普通の人と比べたら?

1. 大きかった
2. 同じ大きさだった
3. しわが多かった
4. 普通の人にはない部分があった

問5 右脳型人間と左脳型人間は存在する

1. 左脳型は、断然男性に多く、女性に少ない
2. 性差ではなく、タイプ別で左脳型・右脳型が存在する
3. 右脳型は、若干女性の方が多い
4. 存在しない

問6 ニューロン(神経細胞)は脳の中にいくつある?

1. 8000~2億
2. 8億~20億
3. 80億~200億
4. 800億~2000億

問7 人の遺伝子の数はいくつある?

1. 2万
2. 2000万
3. 20億
4. 2000億

問8 大人の脳の重さは、およそ体重の何%?

1. 0.1%~0.36%
2. 1%~3%
3. 10%~12%
4. 12%~15%

※この問いに関しては、下記の専門書から一部引用したり、参考にして一部加筆・修正をしています。
・脳の仕組み(東洋経済出版)サンドラ・アーモット+サム・ワン
・本当は間違っている心理学の話
・脳の事典(成美堂出版)

チェックテストの解答と解説

さぁ、どうだったでしょうか?
知らなくて当然の問題もあります。これは知っておいて欲しい、もし勘違いしているのであれば訂正して欲しい問題もあります。
それでは、解説していきましょう。

問1 私たちは脳をどれだけ使っていますか?

多くの人が、3. およそ10% を選択します。
脳の話題になると、必ず引用されるのがこの「10%神話」です。”自分の脳みその10%しか使っていないのだから、もっとできるはずだ”というポジティブ思考につながりますが、残念ながら全く根拠がありまあせん。 実は、人間の脳はかなり効率的な装置で、無駄がないとされています。もし10%が正しいとするならば、脳が多少傷ついても、目立った問題は起きない可能性が高いはずです。ところが、脳は少しの傷でも重大なトラブルを引き起こします。
実は、この「10%神話」の由来が面白いのです。
近代心理学者のウィリアム・ジェームス(アメリカ)が、『たいていの人は、自分の知的潜在能力(精神的な能力)の約10%以上を使っていないのではないか』と語ったものが、啓蒙家らによって「能力の10%」になり、「脳の10%」と拡大利用されたのでは・・・という説です。

正解は およそ100%

問2 最後に脳細胞が生まれるのはいつ?

2. 5歳~6歳 と選択する人が多いかもしれません。
サンディアゴ・ラーマン・イ・カハール博士によって脳神経細胞(ニューロン)が発見されました。1906年にカハール博士はノーベル賞を受賞しています。
1990年代まで、人間の脳は大人になってしまえば、衰えるだけで成長することはない、というのが常識でした。

『1日に10万個の脳神経細胞が死んでいく』
『何でも若いときにやっておけよ。大人になったら脳は衰えるばかりだから』
皆さんも、親や先生から言われたことがありませんか?
大人の脳では、新しく神経細胞が生まれることはないという通説でした。

1998年、スウェーデンのピーター・エリクソンにより、神経新生が成人の脳の海馬(記憶の中枢の大脳辺縁系にある)で起こっている画期的な研究結果の発表がありました。
2000年には、ロンドンの研究グループによって、ロンドンのタクシードライバーの脳の海馬が、一般市民の脳の海馬と異なる研究結果を発表しました。
人間の脳は、経験によって大きく変わることが証明されています。幼少期だけでなく、成長期の脳も、成熟した脳でも神経細胞が生まれ続け、神経回路が変化することの証明は、我々に勇気を与えてくれます。
かといって、”3つ子の魂百まで”といった経験上の教えや知恵が消滅したことにはなりません。
”鉄は熱いうちに打て”は、特に芸能やスポーツ、囲碁・将棋の世界では共通した認識のようです。
一方”五十の手習い””六十の手習い”は、学問や習い事をするのに、年齢制限などはなく、たとえ晩年になって始めても遅くはない、という前向きな意味を、脳科学のデータは後押ししてくれます。

正解は 老年期

問3 生後1ヶ月未満の赤ちゃん(健常児)の脳はおよそどのくらいの重さ?

これは、”脳の知識”というより、人間がおよそどのくらいの重さで誕生するのかという常識の有無。
赤ちゃんを抱いた経験があるかどうか、さらに10グラム、50グラム、100グラムの感覚があるかどうか、という問題です。
人間の赤ちゃんはおよそ2kg~3kgで生まれます。個人差はありますね。
生卵1個の重さは、およそ40g~60g程度でしょうか。赤ちゃんの脳の重さが生卵1個分?・・・チョイと考えづらい。まぁ、感覚的な問題ですが。
よって、消去法でも正解にたどり着きます。
ところで、あなたは何グラムの体重で生まれましたか?

正解は 350~400グラム

問4 アインシュタインの脳を普通の人と比べたら?

相対性理論のアインシュタインは、天才の代表格として誰からも知られています。チャーミングな写真が、彼を一層人気者にしているのでしょう。名前は知っていても、ほとんどの人は「相対性理論」を説明できません。私も同じようなものです。
天才 = 脳が大きい
天才 = 脳の中のしわが多い
そんな俗説に紛らわされている人もいるかもしれませんね。
昔の話ですが、皺くちゃなおばあさん(長寿で有名になった双子きんさん、ぎんさんのような)が信州の田舎の近所にいました。
『あ~いう、シワがたくさんある人は頭がいいんだよ』誰ともなく噂していたのを記憶しています。
脳のシワと顔のシワ、人間って勝手に物語を作るのでしょうね。ちなみに脳のシワが多いのは、鯨とイルカ。一番少ないのはトガリネズミ。
脳の大きさは、ほぼ体の大きさによります。

正解は 同じ大きさだった

問5 右脳型人間と左脳型人間は存在する

この問題は、かなり間違えた人が多いかもしれません。
冷徹で厳格な”左脳”は、「論理的」「分析的」「言語的」「男性的」。
温かくファジーは”右脳”は、「直感的」「全体的」「非言語的」「女性的」。
血液型判断法や星座占いのごとき魅力的な表現です。ばっさりと、説明できるフレームワークは使い勝手がいいので、都合がいいのです。
「キミは右脳的だねぇ~、ほら、感が鋭いでしょ」
酒宴の場では盛り上がりそうな話題です。私たちも20代の頃は盛んに使っていました。いわばブームでした。
脳の機能を左右にん二分した手法は、米国で1970年代~1990年代に流行しました。そして先進国に伝播していきました。日本も例外ではありません。
きっかけは、アメリカの神経心理学者、ロジャー・スペリーの、左右の脳の離断手術による”脳機能の左右差”の発見 ― 「分離脳研究」です。
彼は、この功績により1981年にノーベル賞を受賞しました。そして世間では、左脳、右脳活性化フィーバーが起こりました。
しかし、現在では画像検査の進歩で、脳の領域別機能研究が容易になり、二分法で語れるほど単純でないことが判明してきました。
健常な脳は、最初に入った情報を、左右間の連絡経路を使って、相互補完し合い、情報共有します。

正解は 存在しない

次問、問6~8は重要な問いではないので、関心のある人だけ解説を読んでください。
ここに書いてある数値を覚える必要は全くありません。なぜなら、脳科学はまだまだ発展途上の学問であり、今後も数字が変わる可能性が大きいのです。

問6 ニューロン(神経細胞)は脳の中にいくつある?

実は、脳の体積とニューロンの大きさを比較計算(単純計算)して、1000億とか2000億とか言われています。
この10年で脳科学におけるプロジェクトが進行して、大脳皮質の回路構造が判明したり、電子顕微鏡で脳の隅々まで精査する試みがされているようなので、この数字は変わるでしょう。

正解は 800億~2000億

問7 人の遺伝子の数はいくつある?

遺伝子の数は2003年のヒトゲノム・プロジェクトが完了し、判明しました。ヒトの遺伝子は約2万程度です。
これは、今まで専門家が予想していた以上に少ない数だと言われています。何とネズミやサルとほぼ同じと聞くと、感覚的にはびっくりします。

正解は 2万

ところで、遺伝子とかDNAとかニューロンとか・・・専門用語でわかりづらいですね。ここでは詳細説明は省きますが、簡単に触れましょう。
簡単に言うと(ものの本からの借用ですが)遺伝子は情報であり、DNAはそれを記録する媒体。例えで言うと、音楽が遺伝子、その音楽を記録している媒体(CD)をDNA。
ヒトのDNAは全部で30億塩基対あり、ほぼ解読されました。DNAは、A(アデニン)、T(チミン)、C(シトシン)、G(グアニン)の4種類。この並び順によって遺伝情報を記録しています。
4は、2の2乗2ビット。1ビットは8バイト。バイト数で表現すると、30億×2÷8=7.5億バイト = 750メガバイト つまり、CD1枚の容量に収まる情報量ということになります。

問8 大人の脳の重さは、およそ体重の何%?

この問題も、重さの類推で正解にたどり着けそうです。
仮に体重が60kgとしましょう。平均しておよそ6頭身だと考えれば、首以上の重さは16%(10kg)。身体は左右の肉体があるので、まぁ、その半分の8%(5kg)髪に覆われている箇所は、およそ4分の1程度ですから、だいたい2%(1.25kg)。

正解は 2. 1%~3%

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