理究の言魂(ことだま)

NO4-1 感情を科学する その1

「明・楽・元・素」は能力ではなく、一般的には性格(=パーソナリティー)を表しています。その性格は、感情受容や感情表現-「明・楽・元・素」言葉-を通じて、他者に認識されます。

いつも笑顔の絶えない人をみると「明るい人だなぁ」と感じたり、何気ない会話の中で冗談めいた話に乗ってくれると「素直でよさそうな人だなぁ」と。その人の視線や表情、仕草、姿勢、ムード、声の響き、大きさ、語感などは、その空間を共にしている者の“感情” を刺激します。
乱暴な言葉で、大声で話す人には、思わず身構えませんか。幼き子に思わず微笑みませんか。困っている人には、手を差し伸べようとしませんか。そうです、すべて“感情”が動くからです。

今回は、脳神経学のアントニオ・R・ダマシオ の『感じる脳』を参考にモットーの背景にある、とても厄介なテーマ“感情”を紐解くことで“モットーの意義や価値”を熱く語ります(笑)。

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ

ダマシオは、人間の脳は、「感情(feeling)」を感じる前に、身体から根源的な働きかけを受けていると考え、この働きかけを「情動(emotion)」と定義づけしました。
たとえば、何か恐ろしい状況に直面した時の恐れの「感情」を経験する場合を考えてみましょう。そうですね、9.11の時のように目の前のビルが破壊されている光景や、3.11のように津波で町が木っ端みじんになるシーンに遭遇したとしましょう。その場合、一瞬、体が硬直して上手く動けなくなったり、突然、頭が真っ白になり、心臓がドキドキする、といった特有の身体的変化が起きます。これが「情動」です。

ダマシオはfMRI(機能的磁気共鳴画像法)で、脳のリアルタイム画像研究により、「感情」の前に「情動」が出現することを解明しました。脳の中で反応する箇所が異なり、そして変化するのです。
ダマシオの表現を借りると、異性を見て感じる“性欲”は「情動」、その“性欲”の後に、相手に対しての慈しみなどの“愛情”が湧いてくる、それが「感情」といいます。
と、なると『“性欲”を感じなければ、“愛情”がおきないの?私はそんなことはないわ』と、反論が出そうですね(笑)安心してください。人間には、庇護本能や母性本能(「情動」)を刺激され、それが愛情に転嫁する場合もある、と私は解釈しています(汗)
う~ん、少々込み入ってきました。少し、粘って進んでください。
「感情」「情動」を説明するのに、“脳”は避けては通れません。なぜならば、主人公は、“脳”であり、“脳”の中ですべてが展開されるからです。

イメージし易くするために、脳の構造を建物に見立てましょう。
3階建て「地下2階、地下1階と、地上1階」の3層です。建物ですからすべてのフロアは上下水配管や電線、階段などで繋がっています。
先ず、地下2階。「真っ暗な部屋」。空調設備や配電盤、給排水設備などのハード管理室。イカレルと機能不全となる・・・。生物の生命維持装置ですね。人間の心拍、呼吸、血圧などを司る“コントロールルーム”。よって、整然としています。睡眠中でも呼吸は止まりません(笑)
生物学では「脳幹」と呼ばれています。

次に、地下1階。「地下2階と地上1階の中継する部屋」。
複雑怪奇な空間。小脳と間脳で構成。ここが、「情動」「感情」の本丸。つまり、カオス状態を構築する場所と言っていいでしょう。

中野信子 氏に『シャーデンフロイデ』という興味深い著作があります。

シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感 (幻冬舎新書)

シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感 (幻冬舎新書)

ドイツ語で、フロイデ(Freude)は喜び、シャーデン(Schaden)は損害、毒という意味です。これは、誰かが失敗した時に、思わず沸き起こってしまう喜びの感情の事を指します。え!ちょっとドキッとしませんか。そんな馬鹿な!と、複雑な感情になりませんか。なぜならば、きっとあなたにも経験があるからでしょう。あなた自身の記憶にある自己嫌悪しそうな感情です。人間性を疑われるので、誰も大っぴらには、言いません(汗)。
「え~、私はそんな感情ないわ」と思っているあなた。あなたは善人かもしれません。しかし、気を付けましょうね。あなたにはなくても、多くの人間には“人を引きずり下ろす快感”があるというのが、脳科学者の中野氏の弁です。悲しいかな匿名性の高いSNSなどの悪口雑言の垂れ流しは、それを物語っています。
脳の摩訶不思議さの権化、まさに魑魅魍魎の世界が、この地下1階だと私はイメージしています。

「情動」の元となる場所が「カオスの地下1階」。私たちの五感で感じる体の隅々からの身体情報―気温や湿度などの体感に始まり、あらゆる感覚器からの知覚情報―がこの「地下1階」の中継室に集まるのです。
たとえば、血中の糖の量や水分濃度情報は、脳幹でキャッチ。その情報が「地下1階」にある大脳辺縁系(偏桃体)視床下部に届く。そこで、血糖値の低下は“空腹”として、水分不足は“渇き”として認識され“食欲”“水分補給欲求”という欲望がムクムクと生じるのです。

さて、最上階。3番目の空間―地上1階は、普通に生活する空間。遊び、勉強、運動、料理、・・・・そう、人間だけが持っています。脳全体の総重量の80%を占めている「大脳」。大脳の役割は、あなたも知っていますね。そうです。知的活動(推理、判断、思考)をしています。人間が人間になるために進化させてきた秘密の場所。
さて、この三層建ては、連絡通路が複雑に張り巡らされています。したがって、「地下1階=間脳+小脳」の情動・感情機能に、大脳は常に影響を受けているのです。人間が「ホモ・サピエンス(賢い人)」として進化してきた歴史がある。その遺産、形跡が脳の中にあると考えられているのです。

心理学や大脳生理学の世界では、「感情」はつかみどころのない領域。よって、ダマシオの実証研究は大きな影響を持ちました。なぜならば、「感情」は、私的なもの、神秘的なもの、理解できないもので、「感情」の原因を探ることはできないとされていました。人間の「意識」と同様に「感情」も科学の領域外とされていたのです。
感情の流れは、大雑把に「地下2階⇔地下1階⇔地上1階」と縦横無尽に行きかうのです。“素の情動と感情”が「地下2階+地下1階」部分です。勿論、明確な線引きがあるわけではありません。経験上言えることは、体調が悪かったり、友達や恋人と上手くいってなければ心は晴れませんよね。つまり、心身の健康や、人間関係の順・不調の度合いが、“素の情動と感情”を規定します。感情の表出としてのメカニズムを知れば、如何に「明・楽・元・素」言葉を表出したり、応答したり、また、「明・楽・元・素」のパーソナリティーであり続けることは、実は簡単ではないことが理解できます。次の章では、別観点から「感情」を覗きます。

*「明楽元素」言葉(例)

充実している・簡単だ・できる・可能だ・まだ若い・楽しい・きれいだ・イケる・おいしい・面白い

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