教育の効果
ICT(情報コミュニケーション技術)の普及により、学校での教育方法や内容、家庭教育での時間の使い方なども変わっていくでしょう。これから大きな課題になるのは「教育評価」です。多様性や創造性などが求められているのに、旧態依然とした“解答がある問題を速く、正確に解く”ことだけに評価のウエイトが置かれることに疑問が出てくるのは必定です。
では、「どのような教育が効果的か」という問いに、あなたはどう答えるでしょうか。「どのような教育が効果的か」、「その根拠は何?」という問いに対して、私たちはどう向き合うべきでしょうか。
この問いに対して、ヒントとなる書籍を2冊紹介しましょう。
1冊目は、ジョン・ハッティ(John Hattie)の著書「教育の効果」。
教育の効果: メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化
教育に効果を及ぼしうる「カリキュラム」「教育方法」「宿題」「チームティーチング」など“138の教育に関する要因”が、学校での学習にどの程度影響しているのかを分析しました。
詳細は省きますが、それによると、学力に影響を与える要因は、“教師(=指導者、講師、リーダー)”に関するものが多いということです。「教育成果、効果」に関して、大きく2点が指摘されています。
1点目は、形成的評価
=学習者が、授業を通じて、どんな力がついて、どこで躓いているのかを調べた上で、授業を改善すること
2点目は、指導者の明晰さ
=指導者の簡潔な指示や明確な説明ができているかどうか
1点目について、弊社の例でいうと、授業デザイン、指導書、テスト分析などで地道にノウハウを積み重ねていました。今まではアナログ作業が中心なため莫大な労力が必要で、継続的な調査は困難でした。特に「躓き」は、経験則としてベテラン指導者の専売特許。ICT時代になり、データの蓄積や分析が比較的簡易にできるようになります。よって、形成的評価は、限りなく自動化されていくでしょう。つまり、油断はできないものの手順を踏めば、品質は上がると楽観視できます。
2点目の教師(=指導者、講師、リーダー)の“明晰さ”というのは、決して専門性を問うているのではない、ことがデータでも示されています。後述する指導原則の「目的提示の原則」「指示明確化の原則」「簡潔化の原則」に密接な関係があります。
“感情や個性を持った“人間という媒体”が指導者(講師、教師、リーダー)であるかぎり、【学び手】に大きな影響を与えるのは必定です。ジョン・ハッティの素晴らしさは、研究を継続して「ハッティ・ランキング」指標を出し、「教育効果」を高めるために、教育技術や方法に対してヒントを出し続けている事です。
2冊目は、中室牧子 氏の著書「学力の経済学」。
この本の第5章で“いい先生”とはどんな先生なのか-日本の教育に欠けている教員の「質」の概念-と、突っ込んだ議論を教育経済学の視点で論じています。
中室氏は、子どもの学力は家庭環境・資源が大きく影響しているが、一方でその不利・不足を挽回する力が指導者にはあるとも述べています。つまり、ジョン・ハッティと同様に「教育の効果」の最大要因は指導者(教師・講師・リーダー)と断言しています。
う~ん、さも・・・ありなん・・・。
多くの人は、心理学的な研究結果を聞くまでもなく、そう感じているのではないでしょうか。であるならば、独りよがりな指導を、教師や講師、リーダーに、任せていていいのだろうか?という疑問が出ます。何らかの対応行動を要求したくなりませんか。
指導者の「質」を高めることが重要であることに異論はないでしょう。ただ、その方法を巡っては議論百出状態が続いています。教育行政では、教育の質の指標化、教員採用試験の共通化、教員免許の国家資格化、教員の研修など・・・さてさて、「質」は高まるのでしょうか。教育現場での多忙さが「質」の高まりを阻害している、との危惧も耳に入ってきます。
私は「質」を高める第一歩として、後述する「指導原則」にフォーカスするのが“時間対効果”も“コストパフォーマンス”も、そして「教育の効果」の一番重要となる指導者(=教師、講師、リーダー)のモチベーションにとってもいいのではないか、と考えています。
大事な事は、これらの原則をどのように指導に反映させたのか、その方法は効果があったのか、改善するならばどのようにすべきか、原則から派生した“技=技術”の引き出しを持つことです。
さて、「則の章」で様様な鉄則、法則、原則を述べてきました。
「指導原則」は、指導理念である、「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く」の前提があり、「NO7 【学び手】への3つの鉄則」、「NO8 現場力の経験則」、「NO9 行動原則3つのステップ」すべてと関連しています。ジョン・ハッティが「教育効果」をもたらす上で重要なテーマは「生徒も教師も共にラーナー(Learner)になること」と看破し、その1つとして「学ぶよい機会として間違いを歓迎すること」と述べています。全く同感であり、その考え方を普及していきたいと考えています。
この章の大きな目的は、「教育の効果」を上げる-子供たちの持っている能力を最大限、無条件で認め、活かす。生徒たちの学力を伸ばすためです。
教育効果の最大要因は、指導者(=講師、教師、リーダー)と定義づけることは明々白々ですが、実は勇気がいることです。なぜならば、1つの学校で、1つの塾の中で、1つの施設中で、指導者(=教員・講師・リーダー)の優劣が判明することは“副作用”が生じる可能性があるからです。よって、その取り扱いは要注意となる対象です。軽々な処理や対応は慎むべきですが、その現実には真正面から対峙すべき重要な問題です。決して有耶無耶にしてはならない厳しい検討課題なのです。
指導者(=講師、教師、リーダー)の「指導原則」を次項以降に6つ掲げました。原則1つ1つの解釈は人によって異なるかもしれません。細部はともかく本質をざっくり理解して、行動に移してみることです。行動ができなければ意味がありません。私たちは実践者なのです。実践することで児童・生徒たちの能力を最大限引き出していくのです。
あなたの周りに上手な教え方の“指導者・教師・リーダー・保育士・講師”が必ずいます。その人をじっくり見て、観察すると、きっと下記の「指導の原則」に準じて児童・生徒とやり取りしているはずです。