理究の言魂(ことだま)

NO2-2 Aufheben(アウフヘーベン)

菅原道真は、「和魂漢才」を唱えました。
和魂=日本独自の精神。漢才=中国伝来の学問。この2つ概念を融合しました。流石に学問の神様。日本に特有のヤマト魂を基盤としながら、歴史も古く、政治も文化も一日の長がある中国から取り入れよう、というものです。平安時代に生まれた思想です。
この「和魂漢才」は時代を経て幕末から明治維新 の激動期に復活しました。「和魂」は“やまとだましい”と読まれました。

幕末の吉田松陰

「かくすれば かくなるものと 知りながら 已むに已まれぬ 大和魂」

という歌があります。当時(江戸時代)は外国船に乗り込むことは重罪です。その禁を破っても ―“敵を知らなければこの日本国を守ることはできないではないか!” ―
やらねばならない情熱が若き松陰にありました。なぜならば、1840年のアヘン戦争で隣国の清国が、イギリス軍にボロボロされた事実を知っていたからです。
“日本国も欧米列国に侵略される”という亡国の危機感が尊王攘夷派である青年たちを突き動かしていた時代です。

明治維新(1868年)は、日本の革命です。過去の清算。だから面白い。変化の連続です。NHKの大河ドラマの題材は、幕末から明治維新が圧倒的に多いのも頷けます。

さて、激動の渦中にいた渋沢栄一は、名著「論語と算盤」の中で、「士魂商才」を掲げました。
日本の歴史の濁流期に生まれ活躍した人物です。欧米列国に植民地にされる可能性があった帝国主義時代。日本という国をどう発展させていくべきかを命を懸けて構想し、官僚を若くして辞して、実業に邁進した実務家です。
商売(金を稼ぐ行為)は卑しいという価値観に支配されている時代に、利益追求と道徳の調和(バランス)を説きました。
渋沢は、世の中で自立していくためには、武士のような精神が必要。しかし“武士は食わねど高楊枝”のように、経済を重んじなければ、世界に追いつくことはできない。だから“士魂”と“商才”を併せ持つことが肝要であると唱えました。

論語と算盤 (角川ソフィア文庫)

論語と算盤 (角川ソフィア文庫)

ところで、あなたは「お金」は好きですか?
「お金」を嫌いな人はまずいませんね。「お金は、命の次に大事なものの1つです。「お金」の魅力は強烈です。よって、人を惑わせます。人を虜にもします。「お金」で人生が狂う、命を落とす人もいます。「稼いでなんぼ」「儲けたもん勝ち」のような価値観を蔓延させます。
日本もバブル を経験しました。「拝金主義」が横行し、人心が乱れました。

渋沢は、「お金」の特徴を理解していたのでしょう。適正な歯止めの必要性を感じ、自分の利益と他者の利益を調和させようとする「道徳経済合一説」というモットーを打ち出しました。
明治時代の前は、江戸時代です。江戸時代には明確な身分制度がありました。「士・農・工・商」です。
士は武士。身分が一番高く、商は、商人。身分が一番低いのです。渋沢は、それを組み合わせました。それが「士魂商才」

2021年NHKの大河ドラマ「青天を衝け」 の主人公。渋沢は、国民からは新一万円札の顔としても注目され、実業界からは「日本資本主義の父」としてファンを増やしていくでしょう。どう描かれるのか楽しみです。
1000年ほどの時間差がある菅原道真と渋沢栄一。二人とも二つの対立しあう二物の関係を、1つ上の次元へ引き上げて物事を解決しようという考え方を持ちました。
この考え方は、「弁証法 」で名高いヘーゲルの基本概念であるAufheben(アウフヘーベン)=止揚=揚棄と同じです。
「止揚」は、止めて、揚げる。「揚棄」は、揚げて、棄てる。
この止揚=Aufheben(アウフヘーベン)を社是の右側の片翼に置きました。

「教育と経営」、「保育と効率化」、「冒険と安全」、「幼児教育と受験教育」、「誉めると叱る」、「受験教育と理想教育」、「自由と規律」、「学童と教育」、「個別指導と集団教育」、「国語教育と英語教育」・・・・
矛盾したり、対立したり、葛藤したりする命題は山ほどあります。
私たちは限られた時間の中で、奇跡的な“生”を営んでいます。立ち留まっている暇はありません。対立した概念や課題を、慎重に考える事は大事です。しかし、そのことに拘泥して悩み続けても、躊躇していても、即座に解決することは稀です。
歩きながら、走りながら、そう、行動、実践しながら課題を温めながら前進すると、新たな景色が見えることもあります(笑)
事業というものは、持続可能なものにしなければ、サービスをされる方(需要側)も、サービスをする方(供給側)も、共に困ります。いつそのサービスがストップするのか定かでないモノに関わりたいとは思いません。責任の所在が不明となります。両者が、WIN&WINの関係になれるかどうかが大事です。継続してこそ成果や利便を得ることができるのです。継続しなければ、そこに投下したエネルギー、人材、資産、時間が無になるのです。

Aufheben(アウフヘーベン)は、そこに立ち止らず、新たなより高次なモノやコトへと発展させていこう、というもの。つまり“変化し続ける”を意味します。自然の状態であるならば“エントロピー増大の法則”によって退化し、腐敗していくのです。
変化のプロセスで、対立するものを全面否定するのではなく、取り入れて吸収したり、改善することで今より“より良くしていこう”という考え方です。
つまり、それは「両者が衝突しながら、葛藤しながら、時には協力しながら化学変化を起す」「行動しなければ進化しない」と勝手に拡大解釈しています(笑)
それが、私の設定した“Aufheben(アウフヘーベン)”です。

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